減数分裂は、二倍体のゲノムを持つ前駆細胞から一倍体の精子、卵子などの配偶子を生み出す特別な細胞分裂です。二倍体のゲノムを、一倍体のゲノムへ分けるために、減数分裂前期、各染色体は、それぞれの相同な染色体パートナーとペアになる必要があります(例:母方第一染色体が、父方第一染色体とペアになる)。これは後におこる減数第一分裂時において、相同染色体が、対極に引っ張られることで、正しいゲノムの分割が起こるからです。もし各染色体が、相同なパートナーとペアになることができなかったり、間違った染色体とペアになってしまったりすると(例:母方第一染色体と、父方第三染色体がペアになる場合)、配偶子は、異常な数の染色体を引き継いでしまいます。このような減数分裂時におけるエラーは、人間の場合、異常な精子や卵子の産出、そして不妊や染色体先天欠損症につながります。
正確にゲノムを分配するため、減数分裂前期、染色体はいくつかの難技をこなさなければいけません。一見困難に見える、染色体のふるまいは、分子生物学における魅力的な問題です。私たちは、卵母細胞が豊富なモデル生物線虫を用いて、以下の問題にアプローチし、減数分裂期染色体のふるまいを制御している分子メカニズムを理解することを目指しています。
1. 染色体はどのように相同なパートナーを見つけるのか?
全ての相同染色体がペアになる際、例えば父方第一染色体は、母方第一染色体とのみペアになる必要があり、間違って母方第二染色体とペアになるのは避けなければいけません。この時、数多ある染色体のうち、各染色体が、どれが自分と相同な染色体なのかを見分けるメカニズムには、まだ謎が多く残されています。
2. 相同染色体間の組換えはどのように制御されているのか?
減数分裂前期における相同組換えは、母方と父方染色体間に物理的連結(キアズマ)を作るために必須です。交叉型相同組換えを起こすため、染色体は、SPO-11エンドヌクレアーゼにより切断され、DNA二重鎖切断を作って、組換えを開始します。ペアになった相同染色体には多くのDNA二重鎖切断が作られますが、線虫の場合、そのうちの1つの二重鎖切断部位が選ばれて、交叉型相同組換えを起こしてキアズマになります。選ばれなかった他の切断部位は、全て交叉にならない形で、DNAの傷が修復されます。この時、始めに作るDNA二重鎖切断量は、適正な量になるよう厳密にコントロールされる必要が有ります。なぜならば、DNA切断量が少なすぎると、分裂に必要な交叉を作り出せない一方、DNA切断量が多すぎると、修復しきれないDNAの傷が残ってしまうからです。私たちは、この、“ちょうど良い量のDNA切断”を制御するメカニズムを理解することを目指しています。
3. 交叉型相同組換えは、どのように染色体分配へリンクされているのか?
モノセントリックと呼ばれる、動原体が染色体の一部位に限定された染色体を持つ生物では、減数分裂第一、第二分裂における染色体分配は、セントロメアにおけるコヒーシンによる接着を、2段階で切り離すことにより達成されます。一方、線虫は、ホロセントリックと呼ばれる、染色体全長が動原体として働く構造の染色体を持ちます。このため、ホロセントリック染色体を持つ生物種は、モノセントリック染色体とは異なる制御機構で、染色体を分配する必要があります。線虫の場合、このコヒーシンの2段階分離を、交叉が定義する染色体の「短腕(交叉点から染色体末端に近い方)」と「長腕(交叉点から末端に遠い方)」という2部位に分けて行うことで、染色体を分配しています。減数第一分裂では、長腕のコヒーシン接着は保護される一方、短腕からコヒーシンが除かれることで、染色体が分配されます。次に減数第二分裂で、長腕のコヒーシン接着が除かれることで、2度目の染色体分配が起こります。この時、交叉の位置情報が、染色体の非対称へつながる仕組みを理解することを目指しています。
私たちは、分子生物学的、生化学的、超解像度顕微鏡3D-SIMを駆使した細胞生物学的手法を用いて、上記の問題に取り組んでいます。
具体的に、私たちがどのように研究を行い、論文を発表しているかについては、発表論文ごとの「論文よもやま裏話」や過去のインタビュー記事もご覧ください。